溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
「…歌舞伎か」
「あ! いいのよ、馴染みないわよね。興味がなかったらいいわ」

少し意味深な相槌を打ってしまった俺に、芽衣子は気遣いをみせる。

「いや、俺だって綾部ホールディングスの跡取りだ。歌舞伎くらいはよく嗜むよ。…ただあそこは、やはり来る客に仕事関連の人が多くてね」

ついばったり出くわして仕事関連の話になってしまったりするので、プライベート感が損なわれるのだ。
せっかくの芽衣子とのデートがそうなることで興醒めするのには、抵抗があった。

「…そうよね、確かにあの場は仕事関連の業界の人がたくさん集まりそうだし…ごめんなさい」

しかし、配慮が足りなかったのを恥じているのか芽衣子にそう謝られては、恥じるのは俺の方だった。

「いや、謝る必要はない。芽衣子が行きたいのなら、連れて行くに決まっている」
「でも…」
「大切な人が行きたがっているのに、叶えてやらないのは男として野暮だろ」

断固として言い切った俺に、芽衣子は嬉しそうに微笑んだ。

「わぁ楽しみ! じゃあ公演チケットは、私がネットで買っておくね」
「頼むよ。じゃあ夕食は少し早めでいいかな。贔屓にしている日本料理店があるんだ。いつもは予約しないと行けないんだけど、この時間からなら大丈夫だろう」

そうして、デートプランが決まった。
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