追憶ソルシエール
「佐藤はギリ赤点だな。俺の勘が言ってる」
「そういう伊吹はどうなのさ」
「んー、少なくとも佐藤よりはマシかな」
言葉よりも先に手が出る那乃。リュックで殴りかかろうとした矢先、「じゃー俺部活行くからまた明日ー」と足早に逃げていく伊吹くんの後ろ姿を呆然と見送るまではほんの一瞬だった。
「あーあー。あたしも部活行かなきゃだ。せっかく午前で終わったって言うのにー」
「大変だね、テスト終わったらすぐ部活なんて」
「ほんとだよー。世莉は家帰ってゆっくりするんだよ!」
「うん、お昼寝でもしようかなー」
「あははっ、いいね」
ちょうどお昼過ぎのこの時間。この寒い時期でも日差しがあればうとうとと眠くなる。さっきのテスト時間も窓から差し込む日差しが暖かくて心地よかった。
「那乃ー。準備できたら来てよー」
教室の扉の影から覗かせたふたつの頭。「すぐ行くー」と返事をした相手は那乃の部活仲間だ。
「行ってくるー。世莉はゆっくりお昼寝しな」
「うん、行ってらっしゃい」
ばいばーい、と手を振り見送れば、ふと欠伸が零れ、家に着いたら1時間くらい寝ようと今日の予定をひとつ決めた。
この時間に帰宅できるなんてテストがある数日間しかない。だからわたしは案外テストの日が好きだったりする。ただし夏以外で。夏の真昼間の紫外線は身体に毒だ。
駅に着くまでは数人としかすれ違わなかった。犬の散歩をする人、日向ぼっこをする年配の夫婦、ベビーカーに乗った赤ちゃんと笑いかけるお母さん。
駅に近づくにつれ賑やかになり、電車の中は制服を着た学生たちがちょこちょこいた。それでもいつも帰る夕方よりは圧倒的に少ない。