追憶ソルシエール
空いている席に腰をかけ、リュックからイヤホンを取り出して耳につける。好きな歌手の最新アルバム数曲だけをかれこれ1ヶ月以上も再生している。飽きることなく毎日その4曲の繰り返しだ。
向かいの窓から零れ落ちる日差しが眩しくて目を瞑りながら心地いい音楽に耳を傾けた。このまま夢の中へ飛んでいきそう。テスト期間中に溜まった疲労がどっと押し寄せてきた気分。夢中になっているときはそんなの全く気にならないのに、終わると無意識のうちに張り詰めていたものが一気に疲労としてやってくるのだ。
「……た、いわた、岩田」
とんとん、と叩かれた左肩に、反射的にはっ、と目を開ける。
寝ぼけた頭、霞む視界。
「最寄り着いたけど降りなくていいの」
朦朧とした意識の中、片耳のイヤホンを外し馴染みのある声を取り入れる。
「……えっ!?」
目の前に立つ彼の言葉に辺りを見渡した。見慣れたホーム。そこには言葉通りわたしの家の最寄り駅の名がしっかりと書かれている。
そこでやっとはっきり目が覚め、
「降りなきゃ!」
西野くんの腕を掴んで勢いよく立ち上がり、『まもなく扉が閉まります。ご注意ください』というアナウンスを背に、ギリギリというところでホームに降りたのだった。
はあ、と息を整える。危ない。寝過ごすところだった。長距離を走ったわけでもないのに心臓がバクバクとしていた。この数秒の間に、寝ぼけた頭で状況を把握しなければいけなかったから。