追憶ソルシエール
乗り過ごしたって死ぬわけでもないのに、無事最寄りで降りれたことにひと安心する。西野くんが声をかけてくれてなければ、あのまま終点まで夢の中にいただろう。
そこでようやく西野くんの腕を掴んだままだったことに気づき、パッと離した。外気に触れて心做しか体感温度が低くなった気がした。
「ありがと、おかげさまで乗り過ごさずに済みました……」
「どっか用事あるのかと思ったけどよかったわ起こしといて」
片方だけつけたままのイヤホンを外し、ケースに入れてポケットにしまう。
「同じ車両だったんだね」
「俺も降りるちょっと前に気づいた」
定期をかざし改札を出る。バラパラと人はいるけれど、やっぱり帰宅ラッシュの時間帯ではないからいつもの駅が閑散としてみえる。
「テスト終わった?」
「まだ。明日まである」
「うわ、大変だ」
「岩田は終わったの?」
「今日でラストだった」
「羨まし」
マフラーに半分隠した声がくぐもる。照らされた光の中でも眩しそうに目を細め、相変わらず寒そうに両手はポケットの中に突っ込まれている。わたしからすれば少し暑そうだ。
帰ったら何をしようかとTODOリストを頭の中で作成する。
さっき少しだけ仮眠したし、油断していると時折吹く冷たい風のせいですっかり眠気は覚めてしまった。
「この前の、」