追憶ソルシエール
「好きに決まってるでしょ、じゃなきゃ付き───」
「よかったね」
遮るように、冷たい声が冬の寒さに紛れながら耳に響いた。
「ほんとに好きなやつと付き合えて」
続けられた言葉の意味も分からず疑問は増すばかりだ。
「さっきから何が言いたいの……?」
おかしい。さっきまでテストがどうとか話してたのに。電車で寝てる私を起こしてくれた親切な西野くんじゃない。纏う雰囲気が、私の知っているものとは違くて、冷たくて、境界線を張らされたみたいだ。
「岩田、無理矢理付き合ってくれてたわけでしょ、俺と」
すう、と息を吸って言葉を紡いだ西野くんが、スローモーションにみえた。
聞き捨てならない言葉が耳に入って、今度こそ思わず立ち止まってしまった。
「俺が岩田にしつこくアタックしたから仕方なく付き合ってくれたんでしょ」
「え、」
数歩先で立ち止まって振り返る西野くんの姿を呆然としながら見つめる。
「意味、わかんない」
理解が追いつかない。交わった視線からはなんの感情も汲み取れなくて。頭が、こんがらがりそうだ。
「なんで、そんなこと言うの」
「…………」
「ちゃんと、すきだった」
俯いて、立ち尽くして、遠くに聞こえる踏切の音が、無駄に心臓に響く。
ふう、と一息ついたあと、冷たい空気を吸って、
「わたし、西野くんのこと好きだった」