追憶ソルシエール
斜め前の背中を見ながら、あの頃よりも背が高くなったと思った。傷みのない黒髪はそのままだ。面影はあるけれど、そっくりそのままじゃない。中学生のときよりも幼さが薄れて、確実に大人になっている。
中学生時代を想起していると、彼が突然立ち止まって顔だけ振り返らせた。
瞬間、視線がかち合って硬直したように足を止めると、苦笑いを浮かべられる。
「……なんで後ろなの」
「な、なんとなく」
「隣きてよ」
「……」
「ちゃんと着いてきてんのかわかんねーから」
「……着いてってるよ」
「岩田すぐ逃げそうじゃん」
逃げそうって。なにそのイメージ、と聞きたいのを裏腹に、わたしから零れた言葉はちいさなものだった。
「……名前」
「ん?」
「わたしの名前、覚えてたんだ」
彼がサラリと呼んだ、わたしの名字。
いま思えば、たしかさっきも呼ばれていたような気もするけれど、動揺していてそれどころじゃなかった。
「覚えてるよ」
だから今、なんの躊躇もなく放たれたその事実に、驚きを隠せないでいる。