追憶ソルシエール

季節は10月下旬。
秋も深まり、もうすぐ冬がやって来る。





「ね、明日会える?」

「っ、え?」



咄嗟に出たその声は僅かに上擦った。

思わずぴた、と足を止めれば、彼も立ち止まる。戸惑いがちに見上げると、彼はなんてことないように口を開く。



「タオル返そうと思って」

「……そんなの気にしないで」

「俺が気にするの」



まっすぐに見据えられて口を噤む。

視線を落とせば、わたしが渡した傘が視界に入った。





わざわざ返しに来なくていい。偶然あったとき、もし持ってたらそのときでいい。なんなら、返してもらわなくてもいい。


……なんて、今日学校まで押しかけたわたしがこんなことを言うのもなんだけど。




ちらり、伏せていた瞼を上げて、そっと西野くんを見上げる。


「……明日は予定ない、から」



ぽつりと呟いたのは、明日の約束を交わすもの。

薄く唇を開いたわたしに、「わかった」と了承の声が上から降ってくる。



今日、なんのために好奇の目に耐えて校門の前で待っていたのか、もはやわからなくなってしまった。

結局、西野くんは遅かれ早かれわたしにタオルを返しに来る。それが明日になった、それだけのこと。
朝から続いた憂うつはまだ晴れることはなさそうだ。
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