追憶ソルシエール

後悔したのは家に帰ったとき。あの後別々の帰路についたわたしたち。玄関の扉を開ければ目に留まるそれに、「あ、」ぽつりと零れた一音は誰に拾われるわけでもなくただその場に落ちた。


もう返した気でいた。あの日、勇気を持って学校まで届けて。それなのに、もう一度わたしの手に渡った透明な傘は今も玄関の傘立ての中。ひとり寂しく留守番していたらしい。



いつ返そうか。西野くんとはもう会う予定もないし、返す機会を失ってしまった。













「岩田」

突如、上から降ってきた低い声。


びくり、肩を震わせて窓の外を眺めていた視線を上げると、そこには気難しい顔をした先生が立っていて。



「窓の外になんか珍しいものでもあるか?」


窓越しに外を覗き込む先生。 でも、そこに広がるのはいつもと至って変わらない景色。



「……ありません」


窓際の後ろから二番目の席。なぜ先生がここまで来たのか分からず、目を瞬かせる。



「問2。当たってるから解いて書きに来いよー」

黒板を指差し、それだけ告げると教壇へと戻る先生。



先生から黒板へと視線を移す。そこには①から④までの数字が書かれていて、そのうちのひとつは空欄のまま。他の問題は数式が書き込まれている。


そうだった。今は2限。数学の授業中だ。
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