追憶ソルシエール
何ページだっけ、教科書をペラペラ捲っていれば、机がトントン、と音を立てて軽く揺れた。
音を立てたほう──右に視線を移せば、隣の席の伊吹くんがノートの一部を指さす。
「岩田が当たってるの、この問題」
声をひそめて教えてくれる伊吹くんの指先を辿れば、そこには書き連ねられた数式が。
「これ持ってっていいよ」
続けられた言葉。手渡されたノートを反射的に受け取ってしまう。「いいの?」同じように声のボリュームを抑えて訊けば、当たり前とでも言うように頷いた。
わたし以外に当てられた人はもうすでに解き終えているみたいだ。早く書きに行かなければと黒板へ急いだ。
「さっきはありがとう」
授業後。教科書を机にしまっている伊吹くんにお礼を告げる。
あの後、伊吹くんのおかげで無事に解答を黒板に書くことができて、先生にも『ちゃんと集中するんだぞー』という一言を言われただけで済んだ。
「全然。てか岩田がぼーっとしてるの珍しいな」
「そうかな」
首を傾げれば、「そーそー」と頷いてこちらに身体を向けた。
「俺は授業中でもよく寝てるけどさ、岩田はいっつも真面目にノート書いてるイメージ」
「ほんと? でも伊吹くんが寝てるのは知ってる」
「わ、まじ?」
伊吹くんと笑い合っていれば、「世莉ちゃんいるー?」廊下側から声が届く。