追憶ソルシエール

聞き覚えのあるその声に導かれるように視線を動かせば、教室の後ろの扉から凌介くんが顔を覗かせていた。


目が合って微笑む凌介くん。その姿を視界に捉えた途端、自然と笑みが零れ落ちる。「ちょっと行ってくるね」伊吹くんに告げれば「おー」と見送られ、席を立った。





「どうしたの?」

「次の授業英語なんだけど電子辞書忘れてさ、世莉ちゃん持ってない?」

「あー、凌介くんのクラスの英語の先生厳しいよね」

「そうそう。進むの早いし次々当てられるから着いてくので精一杯」



授業中のことを思い出しているのか渋い顔を見せる凌介くんに、ふふ、と笑いが込み上げてくる。



「ちょっと待っててね、持ってくる」




凌介くんのクラスの英語を担当している先生は、今年転任してきた40代くらいの女性。わたしのクラスの英語担当の先生が不在だったときに代わりに授業をしてもらったけど、凌介くんの言う通り、スピードが早くてノートに書く量も多かった記憶がある。


発音の仕方も細かく訂正され、もともと英語が得意ではないわたしはそのスパルタさに授業後はヘトヘトになった記憶がある。噂に聞いていたとはいえ、その迫力には圧倒された。




自席に戻って、机の横に掛けてあるリュックの中から電子辞書を取り出す。毎日持ち歩いている電子辞書。古典でも英語でもかなりの頻度で使うから必要不可欠だ。
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