あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


「お茶でも入れましょう」

話をする前に落ち着かなければと、和花は震える手をギュッと握りしめた。
それからキッチンに立つ。

紅茶の準備をしながら、和花は思い出していた。
樹は普段はコーヒー派だったが、たまに和花が紅茶を淹れると喜んでくれたものだ。

ロンドンから持ち帰ったアンティークのティーセットを準備して、香りがたつようにゆっくりと茶葉を蒸らした。



***



樹は和花が住む部屋に足を踏み入れると、妙に緊張してきた。
そこは自分の知らない世界だった。

玄関先には可愛らしい子どもの靴や傘があった。
どこかで見たことのあるキャラクターが描かれているポスターも廊下に貼られている。

(和花の世界は、もう子ども中心なんだ)

サイドボードはアンティークのものらしいが、いくつか写真立てが置いてあった。
小さな赤ん坊の頃から、さっき見た歩く姿まで何枚もの写真が飾られている。
背景はロンドンの街並みで、あの子がロンドン生まれなのがわかった。

(たしか、名前はれお……)

リビングルームの隅には大きなおもちゃを入れるボックスがあって、ぬいぐるみやミニカーが溢れそうになっている。
腰を下ろしたソファーの前のテーブルには絵本が重ねてあった。

(井上からのメッセージだと、三歳だったか)



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