あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


圭介は少し身体が弱かった妻にも愛情深い人で、美術界以外からの人望も厚かった。
大翔と佐絵子の幼いカップルにも、温和な笑顔を向けてくれた人だ。

その奥村画廊に贋作を販売した詐欺容疑が降りかかり、大きなニュースになった。
訴えた実業家が有名女優の愛人と噂される人物だったことも、マスコミの餌食になった理由かもしれない。

結局は証拠不十分で不起訴とされたのだが、その心労からか圭介は急死してしまう。
信用で成り立っていた商売だけに、彼の死で画廊はあっという間に経営が傾いた。

贋作事件は『画廊 奥村』を失脚させるための罠だったとか、海外資産家のマネーロンダリングに利用されたとか噂はたくさんあった。
奥村が亡くなったことで、あっけなく騒ぎは収まった。だが未だに事件の真偽はわかっていない。

贋作騒ぎを起こした実業家の代理人グループの中に、まだ駆け出しの弁護士だった樹の名前もあった。

どうして恋人の父親を糾弾する側に樹がいたのか、大翔にも佐絵子にもわからない。
『大人の事情』だと親から言われたが、ふたりは納得できないままだ。
なにもわからないまま状況だけが目まぐるしく変わる日々で、記憶に残っているのはマスコミが連日のように大騒ぎしていたことと和花の父親が亡くなったことくらいだ。

樹や大翔の両親の弁護士事務所も事件に関わっていたことをふたりが知ったのは、ずいぶん後になってからだった。




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