あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
愛を数えて



診療所に着くと玲生が苦しそうに咳き込んでいた。母親として、こんな玲生を見るのはとても辛い。

「玲生、ごめんね。お出かけしてて」

つい、夜に留守にしていたことが悔やまれてしまう。

後藤が手際よく薬を飲ませてから吸入すると、玲生の症状は少しずつ安定してきた。

「高原さんがいてくださって助かりました」
「いえいえ、私も息子が何度も同じ症状を起こしていたので他人事と思えなくて」

玲生に付き添ってくれていた高原も安堵している。

「遅くまですみませんでした。あとは私が付いてますから」
「そうですか? お言葉に甘えて今夜は帰ります。なにかあったら、遠慮なく連絡してくださいね」
「ありがとうございます。お気をつけて」

高原が帰ると、クリニックには後藤と和花と玲生の三人だけになった。
玲生は発作が落ち着いたのでウトウトしている。

「今夜はパーティーだったんですね」

和花の装いを見て、後藤が眩しそうな顔をした。

「こんな格好ですみません。主人の勤め先のパーティーに呼ばれていたので」

和花は慌ててネックレスを外してバッグにしまった。

「あんまりお綺麗だから、ビックリしましたよ」

珍しく軽い口調で話をしてくる。

「先生、お上手ですね」
「普段のお母さんとは別人みたいですよ」

そういいながら、後藤は真面目な表情になった。

「玲生くんとお父さんとの生活はどんな感じですか?」
「えっ?」
「立ち入った話ですみません。玲生君はパパと遊んだってとっても嬉しそうに話してくれるんです。でも、お母さんの表情が玲生君ほど嬉しそうじゃないので気になってました」





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