あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
「私、嬉しくなさそうですか?」
「う~ん。嬉しくないというか、戸惑っている感じですかねえ」
後藤は正直な人だ。感じたままを話しているのだろう。
「こんな気持ちでいたら、玲生にも伝わるでしょうか」
「子どもは親の感情に敏感ですから」
玲生が求めていたものと、和花が望んだ幸せは違っていたのかもしれない。
玲生に『パパ』ができれば和花も幸せになれるのではと期待したが、その反対になってしまった。
後藤はその微妙なズレに気がついたのだろう。
「先生、いつもお気遣いありがとうございます」
「さ、もう落ち着きましたね、玲生くんもお母さんも」
自分が求めていたのはなにか、和花の心の中で少しずつ形が見えてきた。
「玲生くんが眠っているから送りましょう。車を出しますね」
「いえ、そこまでしていただいては……」
「こんな時間にこの辺りでタクシーはつかまりませんよ。玲生くん寝ちゃったから、重くて抱っこして歩けないでしょう」
このドレス姿で歩くのは無理だと後藤は言いたいのだろう。
「ありがとうございます。助かります」
和花は素直に後藤の好意を受けることにした。
「いつも、そんなふうに甘えてください」
「はい」
和花は玲生を抱いたまま、後藤の車に乗せてもらった。
眠ると子どもはずっしりと重い。もうこんなに大きくなったのかと改めて感じた。
少し前まで軽々と抱き上げていたのに、油断したらふらついてしまいそうだ。
これから玲生はどんどん成長して、いつか和花を追い越していくのだ。