あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています



「ずっと、好きだった」

樹は、和花の顔をそっと両手で挟むと上を向かせた。

「ずっとだ、和花」

そっと唇を重ねる。

「愛してる。今度こそ離したくない」

もう一度唇を重ねると、今度は深いキスを仕掛ける。

「待って」

擦れた声が和花から漏れるが、唇を貪り続ける樹には関係なかった。

「もう、待てない」
「んんっ……」

バーを出たとき、暗い階段で交わして以来のキスだ。
どれだけ夢中になっても足りない。

「もう、遠慮はしない和花。君はもう、俺の妻だから」

樹がアンティークドレスの背中に手を回してファスナーを下ろした。

「妻を、抱きたい」

優しい愛撫に始まって、徐々和花の敏感な部分を探っていく。

「……ここでは、ダメ」

和花も待てないのだろう。樹は和花をそっと抱き上げた。

「ベッドルームはどっちだ?」
「右のドア」

蹴るようにドアを開けて、樹は和花をベッドに下ろした。

樹を見上げている和花が愛しい。
そっと覆いかぶさるようにして、和花を見つめながら樹は尋ねる。

「和花、君の気持ちが聞きたい」

「もう、離れたくないの」

すう―っと、和花の瞳から涙がこぼれた。

「ああ。離さない」
「ずっと、ずっとよ」
「ああ、ずっとだ」

樹の唇が和花の身体の飢えを満たしていくと、彼女も応えるように身をよじる。

「私を愛してるって言って」
「何度でも言うよ。愛している」


その夜、樹は何度も和花にこれまで言えなかった愛の言葉を囁き続けた。







< 126 / 130 >

この作品をシェア

pagetop