あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
***
樹は和花の言葉を全身で受け止めていた。
彼は仕事上では相手に打ち勝つために喋り続けるが、私生活では殆どお喋りをしない無口な男だ。
その性格が和花をここまで傷つけてしまった。
「すまなかった」
樹は和花の肩をぐっと自分に抱き寄せた。
「樹さん……」
柔らかな和花の髪が樹の頬に触れる。
「君とは長い付き合いだったから、つい言葉にしなくても伝わっていると思い込んでいた」
「樹さん、私はあなたにとってなんなの?」
その答えのように、樹は両腕で和花を力いっぱい抱きしめた
「あの時から、ずっと君が好きだ」
「あの時?」
「初めて草原でスケッチしている君を見た時から」
大きな白樺の木を和花が描いていた時だ。あの出会いを樹は忘れたことがない。
「だが、君と連絡を断って、会えなくなって……大翔に責められても君を忘れられなかった。諦められなかった」
「樹さん」
「バーで再会できた時、やっと俺の元に帰ってきたと思ったのに君はいなくなるし」
樹は真摯にこれまでの自分の想いを和花に告げた。
「だから、今度こそ君を失いたくなくて、急いで入籍したんだ」