あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
院長の弟だから、晃大も母の又従姉弟だ。
画商として活躍している彼は父の画廊とも取引があったので、和花は幼い頃から可愛がってもらっていた。
晃大と院長が並ぶと、院長の弟というより息子にしか見えない。
晃大は年齢不詳で四十近いのだが、どうみても三十そこそこだ。
パリ仕込みの着こなしとセンスのよさが若々しく見える秘訣だろう。
和花は小さい頃からお洒落な晃大が大好きだった。
彼が選ぶ絵にしても、着ている服にしても、バッグや時計にしても、全てが彼の美意識の塊だ。
彼が未だに独身なのは、それが災いしているらしい。
岸本院長も、よく愚痴を溢していた。
『あんなに自分にも相手にも厳しいと嫁がこない』
和花から見れば、そんな晃大をどんな女性が射止めるのか興味津々だ。
「お母さんと話せた?」
晃大も母の症状が気になっているようだ。
「それが、今はよく眠ってて無理でした」
「ゴメン。昼間に僕と話して疲れたんだろう」
晃大は申し訳なさそうに和花に告げる。
「晃大さんと?」
「うん」
晃大は口ごもった。
和花に話すべきかどうか迷ったのか、チラリと岸本院長に視線を送る。
「和花ちゃん」
晃大の意図がわかったのか、岸本院長がゆっくり話し始めた。