あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


和花は病気の母が自分の心配をしてくれていると聞いて、ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちで一杯になった。
ゆっくり養生して欲しいのに、心配ばかりかけている自分が情けなかった。

和花は幼い頃から絵を描くことが大好きだった。
ほかには興味がわかなくて、時間があれば絵ばかり描き続けていた。
そんな和花に父はどんどん描くことを勧めてくれ、道具もふんだんに準備してくれたのだ。

色鉛筆のお絵かきから始まり、やがて大きなキャンバスに油絵を描くようになっていった。
高校時代からはデッサンスクールに通うように言われて、父の希望通り美大を目指すことに迷いはなかった。

特にスクールで出会った大翔と佐絵子とはライバルとなり、また友人となれた。

父が亡くなってから、和花には母がすべてだった。
岸本院長や晃大が和花を必要以上に心配しているのも、そのためだろう。
和花は母を失ったあと、自分がなにを目指して生きていけばいいかのかわからないのだ。

これから先の人生をどう歩んでいくのか、和花もいつかは考えなければいけない。
ただ、その未来に樹は存在していないことだけはわかっていた。

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