あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


突然マスコミに報道された贋作詐欺事件の真相は、当時の樹には正直よくわからなかった。
父の友人の弁護士事務所に就職して間がない頃だったにもかかわらず、事件の担当メンバーに入れられてしまったのだ。
先輩に言われた資料を集めたり、関係者の話を聞いたりして昼夜関係なく働いていた。

『画廊 奥村』と、訴えた実業家の間で確かに絵画の売買はあった。
その絵はイギリスで奥村が購入してきたものだったらしい。
実業家が購入を決めたのは十九世紀の画家の作品だった。だが、購入後に友人に見せたら偽物だと指摘されたという。
確かに実業家の持つ絵は贋作だったが、画廊で作品を見た人たちからは『確かに本物だった』と言われた。
奥村が意図的に贋作を売ったと実業家は訴えるし、奥村の弁護士はどこかで作品が取り換えられたと主張する。


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