あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


名前も違うし、どうやら既婚者らしい。
あまりにも和花のことを思い続けていたから幻覚でも見たんだろうか。

「でも、写真と違うなあ。さっきの美女は清楚系だし、ホームページの万里江さんって女性はヘアスタイルもメイクも迫力ありますもん。ショップの店員かなあ」

井上がパソコンの画面を樹にも見せてきた。確かに、オーナーとは雰囲気が全然違う。

「女性は髪やメイクで変わるだろう」

未練を断ち切るように、樹は適当に返事をした。

「さすがっすね、樹先輩。女性にモテるだけあって奥が深い」

井上が茶化してきたが、樹はつい愚痴をこぼした。

「いや、俺は振られてばかりだよ」
「またまた」

井上はまったく信じていないようだが、樹は苦笑してしまった。

(自慢じゃないが、同じ相手に二度も振られた情けない男なんだ)

そんな話をしても、井上は信じてくれないだろう。

「さ、どの店がいいんだ? そろそろタクシー止めるぞ」
「はい!」

ふたりはタクシーを降りて、井上の勧めるパブへ向かった。
樹は一瞬、あのアンティークの店に行ってみようかと思ったが、あまりに未練がましいと自分を諫めた。
こんな場所にいるはずもないのに、いつも和花の姿を探してしまう。

(会いたい……)
 
いつか会えると信じて、樹は和花の面影を求めてしまう。
思いつく限りは日本中を探したが、手掛かりはなかった。
だからどこの国に行っても、どんな店でも街角でも、ふと辺りを見渡すようになっていた。

まさか本当にロンドンにいるとは思いもせずに、和花を探していた。










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