あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
それは、まるでスローモーションで見る映画のワンシーンの様だった。
パステルカラーのテラスハウスが並ぶ一角に、アンティークショップがあった。
その店の前に立って、客らしい人たちを見送っている女性が和花に見えたのだ。
楽しそうに話している顔に見覚えがあった。忘れるはずのない柔らかな笑顔だ。
(あの微笑みは……)
かつての真っ黒なロングヘアではなく、栗色の柔らかいウエーブのかかったセミロングの髪形だ。
ゆったりしたデザインの鮮やかなイエローのチェニックにスリムなパンツを合わせている。
いかにもお洒落な街に相応しいセンスのよさを感じさせた。
(和花? まさか……)
「へえ~、美人ですね~。アジア系かなあ」
井上もその女性が目に留まったらしい。タクシーの後部座席から振り向いてまで見ている。
すぐさま彼はカチャカチャとノートパソコンで調べ始めた。
「さっきのアンティークショップの名前で検索して……」
井上は、あの一瞬で店の名前を覚えたらしい。
「あ、ありました! あのショップのオーナーは、万里江・ハワード。マダム・ハワードですね!」
「そうか」
残念だが、和花ではなさそうだ。