あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


それは、まるでスローモーションで見る映画のワンシーンの様だった。

パステルカラーのテラスハウスが並ぶ一角に、アンティークショップがあった。
その店の前に立って、客らしい人たちを見送っている女性が和花に見えたのだ。

楽しそうに話している顔に見覚えがあった。忘れるはずのない柔らかな笑顔だ。

(あの微笑みは……)

かつての真っ黒なロングヘアではなく、栗色の柔らかいウエーブのかかったセミロングの髪形だ。
ゆったりしたデザインの鮮やかなイエローのチェニックにスリムなパンツを合わせている。
いかにもお洒落な街に相応しいセンスのよさを感じさせた。

(和花? まさか……)

「へえ~、美人ですね~。アジア系かなあ」

井上もその女性が目に留まったらしい。タクシーの後部座席から振り向いてまで見ている。

すぐさま彼はカチャカチャとノートパソコンで調べ始めた。

「さっきのアンティークショップの名前で検索して……」

井上は、あの一瞬で店の名前を覚えたらしい。

「あ、ありました! あのショップのオーナーは、万里江・ハワード。マダム・ハワードですね!」

「そうか」

残念だが、和花ではなさそうだ。

< 66 / 130 >

この作品をシェア

pagetop