あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
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「和花さんの夜のお仕事って、やっぱアレですかねえ」
アシスタントのひとり、若手の室井が意味深に聞いてきた。
「アレって?」
ベテランの田辺が不思議そうな顔をしている。
「そりゃ、バーとか、クラブとかでしょ。和花さん美人ですもん」
「あほ、そんな訳あるか」
「えーっ⁉ じゃ、なんで夜に働いてるんですかああ?」
「そりゃ、時給が良いからだろ」
田辺と室井の不毛な会話を聞いて、大きな怒鳴り声が響いた。
「うるさいよ、室井! 田辺!」
声と同時に、ガアンと力任せにドアが開いた。
いきなり部屋に入ってきた佐絵子が、アシスタントを呼び捨てにするほど怒っている。
「和花のこと、あれこれ詮索したらアタシが許さないからね!」
「ス、スミマセン、佐絵子さん。もう言いません」
美人が怒ると、その顔は恐ろしく変形するのだとふたりは初めて知った。