あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています


「よし、わかったらご飯食べていいよ。」
「はい!」

迫力ある佐絵子の物言いに、アシスタントのふたりはビビっていた。

「さえちゃん、もういいでしょ。御飯が美味しくなくなるよ。」
「大翔~、あんたもしっかり言っといてよ」

さっきとは別人のような甘えた声だ。

「だって、俺たちにはどうすることも出来ないじゃん。今さらだし」
「和花ってばさあ、今日だって樹さんが誘っても断ってたんだよ」

佐絵子はさっきの様子を大翔に話す。

「はああ! 兄貴と和花が会ったの!」

大翔の声は怒りを含んでいる。樹と和花の話題は彼には禁句だった。
佐絵子もわかっていたが、話さずにはいられなかったのだ。

「アタシ、樹さんの車に乗せてもらって、ここまで来たのよ。丁度、和花がマンションから出てきたところで」

佐絵子は大翔の首に腕を回して甘える。そうすると、大翔の機嫌がよくなるのだ。

「樹さんは車で送ろうとしてたけど、あの子は顔も見ずに断ってたよ」

佐絵子は和花が樹を無視していたのが不服そうだ。

「そうか。まだ、無理なんだな」
「あれから四年も経つんだよ。そろそろ……」

「ふたりにはまだ四年なんだよ、さえちゃん。俺たちにはどうすることもできない」

大翔の言葉に、佐絵子はシュンとした顔を見せた。





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