あなたとはお別れしたはずでした ~なのに、いつの間にか妻と呼ばれています
「どうしてそんなことを?」
「なんとなくですけど……パーティーの時に、あの人のことをずっと見てたでしょう」
カンのいい奴にはかなわないと思った。
井上は樹の態度から、彼女となにかありそうだと察しているらしい。
「昔の知り合いさ」
「それだけですか?」
心配そうな井上の顔を見て、樹は頼みごとをしようと思いついた。
公私のけじめはつけたいが、彼になら話しても大丈夫だろう。
「もしあの店へ行くんだったら、なんでもいいからオーナーの情報を聞いてきてくれないか?」
「難しいミッションですねえ」
「頼むよ、井上」
誰からも好感度の高い井上なら、和花についてスタッフからなにか聞き出せるかもしれない。
「この仕事、高いですよ」
井上は面白そうに眼を輝かせている。探偵ごっこと勘違いしているようだが、それもかえって都合がいい。
「わかってる。なんでも驕るよ」
「引き受けました!」
井上はお茶目な表情で樹から約束を取り付けると、足取りも軽く部屋から出て行った。