砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
と言っても、契約を結ぶまでにはほんの数日しか経っていないのだけれども……
アラブの人たちとの交渉は初めてだったが、欧米の人たちとはまた違う「こだわり」があって、とにかく閉口した。
しかも、あたしたちの「結婚」は恋や愛が一ヨクトグラムも存在しない、お互いの利益追求から生じた「契約」による「偽装」だったから余計だ。
(ちなみに、諸説ありだが「ヨクト」には「十のマイナス二十四乗」という最極小の意味だけでなく「苦しみから解脱した、静かで安楽なる悟りの境地」という意味もあるらしい。
あたしも早く、そのような境地に至りたいものだ)
ムフィードさんが間に入って、あたしとマーリク氏の橋渡しをしてくれて、正直言ってほんとうに助かった。
どうしても折り合いがつかなくて、どっかりと暗礁に乗り上げていたとき、ムフィードさんに尋ねたことがあった。
『ムフィードさんは、二番目・三番目…と複数の妻がほしいですか?』
もうすぐ四十歳になるという彼には、一人の奥様と二人のお子さんがいた。
すると、彼は首を左右に振って、
『今の妻、そして子どもたち、いますから』
きっぱりと言った。
——ムフィードさん、やさしいもんね。
彼の家族はしあわせなんだろうなぁ……
『奥様との結婚は、やはりムフィードさんのお父様がお決めになったんですか?』
それが、この地での「慣習」だ。
『はい、そうです。私の妻は私のcousinです。
顔見ることできるから、子どものとき決まりました』
この地では、たとえ子どもであれ男性が女性の顔をガッツリ見ることは憚られる。
けれども、親戚ならばほぼ大丈夫ということで、まだ幼いうちに従兄妹が結婚相手として選ばれやすいのだそうだ。
つまり、「許嫁」だ。