砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
車酔いが辛そうなファティマさんではあるが、部族のルーツである砂漠へ「帰る」ことは、やはりうれしいらしい。
車中で彼女と話していて知ったのだが、実は彼ら夫婦はマーリク氏と同じ部族出身だったのだ。(もちろんワファーさんもそうである)
そんな素振りをおくびにも出さずに、ムフィードさんは淡々と業務をこなしていた。
「But our lineage should not be compared to our sayyid's.」
〈でも、うちは御主人様のお血筋とは比べようもありませんので〉
と、ファティマさんは恐縮する。
それから、あたしがお子さんたちから両親をしばらくの間奪うことになってしまったのを詫びると、
「Could you please don't say that. I think it was a good opportunity for them to understand what our family's job is.」
〈そんなことはおっしゃらないでください。わたしは、あの子たちが我が家の仕事がなんであるか、理解するいい機会となったと思っています〉
そう言って、彼女は首を左右に振った。
ファティマさんは三十代前半の年齢だと思うが、ムフィードさんが帰国するのを待っていたためこの地の女性としては「晩婚」で、お子さんたちはまだ七歳と五歳だという。
——いくらファティマさんのお母さんが見てくれているとはいえ、やっぱり申し訳ないなぁ……
「And my husband's mother is the same way.」
〈それに、わたしの夫の母も同じなので〉
「Your husband's mother?」
〈ムフィードさんのお母さんってこと?〉
「Yes, she’s Samara who working at our sayyid's house in Abu Dhabi...」
〈はい、サマラと申しまして、御主人様のアブダビのお宅で働いている…〉
「ええっ、あのサマラさんがムフィードさんのお母さんっ⁉︎」
思わず日本語で叫んだとたん、車体がバウンドして身体が大きく上下に跳ねた。
危うく舌を噛むところだった。