砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎
「 Ma'am! Are you hurt anywhere?」
〈奥様!どこかおケガはありませんか?〉
ファティマさんが血相を変えて訊いてくる。
「None at all. I'm fine.」
〈まったくないわ。私は平気よ〉
バウンドした弾みでシートベルトが身体に食い込んだためちょっと痛いけれども、それは言わないでおく。
「You didn't know that, did you? I’m terribly sorry for the unnecessary things I said. Both my husband and my husband's mother would scold me. Could you please forget about what I said. 」
〈奥様はご存じなかったのですね?余計なことを申しまして本当に申し訳ありません。わたしは夫にも義母にも叱られてしまうでしょう。どうか私の話はお忘れくださいませ〉
——いやいやいや、もう聞いてしまったことは忘れられないし……
サマルさんは「御主人様の妻」であるあたしに、ものすごく良くしてくれている。
彼女はこの度の急な「砂漠行き」にもいっさい動じることなく、ウォーキングクローゼットにしまったばかりのあたしの荷物を、イヤな顔一つせずパッキングし直してくれたし、この地の民族衣装もすべて揃えてくれた。
だけど、ファティマさんにとっては「お姑さん」だ。粗相がバレれば、なにかとめんどくさいことになるんだろう。
また、サマルさんの顔はいつもニカーブによって覆われているため、息子であるムフィードさんの顔立ちとどこまで似ているのかはわからないけれど……
それでも、職務に忠実なところや絶対に私情を挟まないところは、やはりこの母にしてこの子あり、なのだと思った。