青い夏の、わすれもの。
「律くん...」


その声の主に視線を向けると...

彼女は青い傘を差していた。


どうして?

この子は誰?

彼女じゃないよね?

まるで津波のように疑問と不安が胸に押し寄せてくる。

このままじゃ飲み込まれる...。

どうしよう...。


と、思ったその時。

わたしの脳内で点と点が線で繋がった。

極限に陥ると、人間は覚醒するらしい。

わたしも覚醒した。

この子はおそらく......深月さんだ。

風くんは深月さんに傘を貸したんだ。

わたしが誕生日にプレゼントした

青い傘を...。


わたしは悔しくって苦しくって泣き出しそうになった。

雨だと思わせられるから泣いてもいいかとも思ったけど、やはり止めておいた。


「その傘...」


わたしは傘を見つめた。

この傘、わたしがあげたんだよ。

そう言えるような人だったら、魁くんの告白で悩んだり、風くんと深月さんの関係でもやもやしてミスを連発したりしない。

強かに生きられたらどれだけ楽だっただろう。


「風くんのと同じだ」


わたしはそう呟くことしか出来なかった。

風くんのだって言わなかった。

ううん、言えなかったんだ。

勇気があとほんの少し足りなかった。


深月さんは驚いたのか目を丸くした。

風くんの傘だってなんで分かるの?

そう言いたげな顔をしている。

わたしは逆に聞きたいよ。


どうしてこの傘を借りることになったんですか?

風くんとはどういう関係なんですか?


でも、聞けない。

いや、聞きたくない。

知ってしまったら、

打ちのめされるのが目に見えているから。

これ以上傷を増やしたくない。

これ以上傷が増えたら、たぶんもう...間に合わない。

大会までに癒えることはない。

だから、踏み込まないでおく。


「素敵な傘ですね」


それだけ言って無理に微笑んだ。


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