優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「え、でも。その、今、携帯電話もなくて……ちょっと外に出れないっていうか……」

緋瞳お姉ちゃんと水和子お姉ちゃんの痛いまでの視線を背中に感じて口ごもっていると、渚生君が察してぼそりと言った。

「無理そうか」

黙って首を縦に振った。
小さい声で渚生君は言った。

「いいよ、わかった。壱哉の代わりに様子を見に来たんだ」

壱哉さんの代わりに?

「心配してるって言ってた」

「はい」

気にかけてくれていることが嬉しかった。
久しぶりに聞いた壱哉さんの名前も。

「何かあったら、隣に逃げてきていいから。これ、よかったら」

手に持っていたメロンをくれた。
そのメロンの底になにかメモ紙がテープで貼られていて、渚生君は片目を閉じてウィンクした。
じゃあ、またねと言って渚生君はいなくなったけど『何かあったら』なんて物騒な気がして水和子お姉ちゃんと緋瞳お姉ちゃんを見ずにはいられなかった。
キッチンに戻り、メロンの底にあったメモを確認すると『今日の夜、迎えに来る。約束通りに』と書いてあった。
壱哉さんの字だ。
そっとそのメモをエプロンのポケットに忍ばせた。
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