キミを描きたくて

「お互いの愚痴」

「僕もね、もう会えない姉がいるんだよ」


夏休みが始まる直前に聞いた話。
年の離れた弁護士の姉は、今やどこに住んでいるか、生きているかも知らない。


「だから、会えない辛さはすごく僕にもわかるよ。」


隼人くんは立ち上がると、テレビ台に置いてある伏せた写真立てを持ってくる。

ランドセルを持った少年と、大人びた少女の写真だった。


「僕が依茉ちゃんだったら、同じように今も絵を描き続けてると思うよ」

「これが、お姉さん…」

「そう。僕が中学の時に大学を卒業して、家を出ていったっきり連絡がつかないんだ」


でも弁護士のホームページには載ってるんだよ、なんてスクリーンショットを見せてくる。


「姉さんは生きてる。…だから、僕はもうこの寂しさは無かったことにしてるんだよ」

「…強いよ、隼人くんは」

「だからといって、依茉ちゃんが弱いことにはならないよ。依茉ちゃんだって、長い間耐えてきたでしょ?」


5年間、確かに私は耐え続けてきた。
満月を見て泣きわめき、兄を描き続けて、兄の夢を見て。

夢で見たその顔を、寸分の狂いもないように描きあげる。

それしか、私にはできることがなかった。
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