キミを描きたくて
横になっていた体を起き上がらせて、膝を抱える。
しばらく深呼吸を繰り返して、顔を上げた。



「描かなきゃ」



この気持ちを、忘れないうちに。
この寂しさを、忘れないうちに。

いつもの学校用のカバンからスケッチブックを取り出すと、先のとがった鉛筆でスラスラ描いていく。

息が止まるような感覚。描いている時、私の体の時間は確実に止まっている。



隼人《おはよう、もうおきてるかな?》
《今日はいつもの駅で、11時でいい?》


《依茉ちゃん?》



《まだ寝てる?大丈夫?》



《家行くよ?》



ブーッと鳴り続けるスマホ。
うるさい、目障りだ。私は絵を描くんだ。

描かなきゃいけない、この心情を。
この感覚を絵にして、私は届けなきゃ。


「っ、はぁ」


過呼吸のような感覚に陥る。
手元が震えて、鉛筆が落ちる。それに加えて、心が折れ、床に黒い粉が舞う。


その光景に自我を取り戻すと、ちょうど家のチャイムが鳴る。
時刻は午後12時34分。またやってしまったと、頭を抱えかけた。
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