キミを描きたくて
「す、すみません…」

「ううん、大丈夫。よかったよ、何かあった訳じゃなくて」


コトン、と湯気の立つマグカップをふたつ置く。
私の身を案じた隼人くん。本当に申し訳がない。


「絵を描いていたんだね。うん、とってもきれいだ」


私のスケッチブックを見て、そう評価してくれる。
少し嬉しくなった。

隼人くんは美術部のみんなと違って、もっとリアルで、命をかけるような絵をたくさんアトリエで見ている。

そんな人からの評価、嬉しい以外にない。


「これは…パニックを起こしていたのかな」


隼人くんが私の絵をそう分析する。


「描かなきゃいけない焦燥感に駆られました。もう、ダメだと思いました」

「…そっか。やっぱり、感情的になると絵を描きたくなるのは昔から変わらないね」


何を考えて描いたの?と聞く隼人くんに、口を閉じる。
…兄をまだ引き摺っている。昨日の夜も涙が止まらなくて、もうダメだったといえば、彼はなんて言うだろうか?

< 44 / 177 >

この作品をシェア

pagetop