キミを描きたくて
「ところで、うなされてたけど、なんの夢を見てたの?」

「え?」

「一応布団まで運んだけど…ずっと、悪夢見てるみたいにうなってたよ」


"悪夢"。
そうなのだろうか。

…たしかに、そうなのかもしれない。

会いたくても会えない存在との過去の記憶を、強制的に見させられる。
だからといって、相手と会話出来る訳でもなくて…


「まあ…あんまり覚えてないですけど、いい夢ではなかったと思います」

「そっか。あ、食べたら熱測りなよ」


今日泊まっていいでしょ?
そう聞く彼に、私ははいとだけ言った。

1週間、会長は部活が忙しかったし、私もアトリエに行くことがあった。

昼休みは美桜ちゃんとだし、会うのは朝の登校くらい。
こうしてちゃんと話すのは、少し久しぶりなのかもしれない。


「絵の調子、どうなの」

「絵、ですか?」

「ハヤトクン、だっけ。顔描いてるんでしょ?」


ムスッとした顔。
ただの女避けのためでしかない女に、なんでそんな顔をするんだろう。

私だったら、興味関心なんて抱かないし、こうやって会いにだって来ない。

…ううん、あるはずがない。
女避け以上の感情が在られても、私は困るのだ。
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