キミを描きたくて
「いらっしゃいませ。…って、依茉ちゃん…と、お友達?」
お店に入ると香るコーヒーの匂い。
それに混ざり、絵の具が鼻の奥にツンとする。
「依茉、あれって…」
「あとで話す。美桜ちゃん、何飲む?」
メニュー表を見ながら2人で決める。
私はいつものコーヒー、美桜ちゃんは抹茶ラテ。
美桜ちゃんは普段見ない景色にずっとキョロキョロして、そんな仕草が可愛く思えた。
「後で持っていくね、これ鍵」
「ありがとう、隼人くん」
いつもの、私だけのアトリエに入る。
多分、ここのオーナーさんは私にかなり贔屓していてくれている。
本来5000円の会員費を1000円に、紹介制のところを、元の常連だったからとなしに。
アトリエを独り占めにするのだってきっとそうだ。
「ここ、あの人物画の子が働いているアトリエなんだ」
「…だから、あんまり美術室で描かないのね」
依茉のことしれた気がする、そう言って笑う。
私は、美桜ちゃんのことなんて何も知らないのに。
「美桜ちゃんに言いたいことがあるの」
そう切り出した時、ちょうど隼人くんがノックをして、飲み物を持ってきてくれる。
ひとつの机に、ふたつの椅子。
2人きりのその場所で、私は口を開いた。