キミを描きたくて
美桜ちゃんすらも、私の名前をコンクールで見た事があって、それをきっかけに話しかけてくれた。

中学の時もそうだったが、高校に入っても、私に話しかけてくる人は容姿か絵の2択。

"女避け"なんて理由で話しかけてきたのは彼が初めてだった。


「…そっか、依茉ちゃんにとってあの男は、大切?」

「たいせつ…ですか」

「そう。もし居なくなったら、苦しくなる?」


頭に浮かぶのは、兄のこと。
…兄に比較するのは申し訳ないが、兄に比べたら、失ってもまだ耐えられる気がする。

顔のよく似た肉親と、ただの他人とは比べようもないか。


「きっと、また描くだけだと思います」

「描くだけ?」

「お兄ちゃんみたいに…スケッチブックに描いて、たまにこんな顔だったな、って」

「…僕は、どう?」


たまたま入ったカフェの店員の隼人くん。
ただそれだけの出会いだったが、隼人くんはたしかに…たしかに、私は苦しくなるかもしれない。

心置きなく、弱音を吐き出せる。
美桜ちゃんには話せない孤独感も、不安も、全て。

私は隼人くんを、会えているうちに描いた。
果たして私は、彼がいなくなったら、彼を描けるだろうか?


「…もう描けなくなると、思います」
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