【完】真夏の校舎で出会ったのは幽霊でした。
「私いつもその人に現実逃避もいいけどちゃんと部活に参加しなさいって怒ってばっかりだったわね」
「なんだかお母さんみたいですね、宏海さん」
掃除が行き届いているとは決して言えない図書室の隅っこ。
ポツンと角に置かれた一脚の椅子に腰掛けると、窓からは美術室からも見えていた向日葵が見える。
いつも藤村先生は窓縁に腕を掛けて、向日葵を眺めているのだ。
無気力そうで何も考えていなさそうな表情をしているけれど、意外にも花が好きだってことを先生が過去に描いた作品を見て知っていた。
「部長ってことは、千尋ちゃんは今年受験なのかな?」
「その通りです。今日は現実逃避にふらっとたまたま美術室に来ただけで」
「そうなのね。どこに進学するかもう決まった?」
「それが・・・まだ決めていなくて」
言葉を濁す私に宏海さんは首を傾げる。
「じゃあ将来の夢は?」
「はは、自分が何をやりたいのか未だに分からなくて・・・」
実に私が現実逃避をしている理由は勉強に本腰を入れることができないからである。勉強が嫌いな訳ではない。受験生に勉強がマストなことは分かっている。
でも、どうしたってやる気が起こらないのだ。