【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
「……あぁ……」

 ゆっくりと優しい口づけ。身をよじるような激しい快感はない。
 けれど、彼に愛されているのだと、より深く感じた。

「マリアーナ……」
「ヴォルフ……愛してる」

 気持ちは不思議なくらい穏やかなまま。

「ああ……俺も愛している」

 ヴォルフはわたしを横向きにし、自分も横たわって、後ろから腕を回す。

「あたたかい……」

 ヴォルフが漏らした吐息が耳にかかった。

「うん……あたたかいわ……」

 背中に感じる大きなぬくもりに、ときめきを感じたその時――。

「キューン」

 子供の鳴き声がした。

「……!」

 一度声を上げただけで、起きる気配はない。静かな寝息も聞こえてくる。

 泣いているわけではなさそう……? 寝言かしら。

 振り返ると、ヴォルフも耳を澄ませながら、こちらを見ていた。

「様子、見る?」
「ええ……いい?」
「ああ。もちろん」

 ヴォルフに抱きあげられる。

「え……? わたし、歩けるわよ?」
「離したくない」

 ヴォルフが駄々をこねるように、主張した。その場で立ったまま、わたしの頭に頬をこすりつけ、すりすりする。
< 255 / 294 >

この作品をシェア

pagetop