Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「なーにしてんの。澪奈」
「っ」
後ろから飛んできた声に心臓が飛び跳ねて、慌てて、雑に窓を拭った。
「掃除は終わり〜。みんなもう行っちゃったよ?」
振り返ると、ちりとりを持った有沙が怪訝な顔をして階段を降りてくる。
いつの間にか同じ清掃班のクラスメイトたちは、わたしたちを置いていなくなっていた。
「サボってたの、ばっちり見ちゃいましたけどね。なんか落書きしてたでしょ」
「ご……ごめん、ちょっと、ぼーっとしてて……」
「なになに。……タタラ?」
わたし越しに窓ガラスに視線を送った有沙が、首を傾げた。
わわ……っ。
ちゃんと消せてなかったっ。
「いや、えと、これは」
漫画に出てくる好きなキャラで……とかなんとか。
うやむやに誤魔化そうとして、いや、何の漫画? とか聞かれちゃったら困る! と思い直す。
ぐるぐると頭を回して、勝手に焦っているわたしなんてお構いなしに、
「多々良って、……あの多々良?」
有沙が頭の上に、さらにクエスチョンマークを重ねた。
「──え?」
動揺が嘘みたいにピタリとやむ。
わたしは呆然と、隣にいる有沙を見つめた。