Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「この人、なぎ高の人だよね。澪奈、知り合いなの?」
「……ううん。違う……けど」
思わぬところからの情報に、体を巡っている血液が、冷えわたる。
「人から聞いて……珍しい苗字だなって、思って……。有沙は?」
「わたしも名前だけ。他校の……中学のころの友達に、結構やんちゃしてる子がいるんだけどね。なぎ高の人とも関わりあるみたいで、一時期、多々良くん多々良くん、ってもう夢中だったんだよ」
「……そー、なんだ」
「うん。その子、面食いだから。かっこいいんじゃないかな、多々良くん」
ジトリとした汗が、箒を持つ手に滲んだ。
「それで……その子、上手くいったの? 多々良くん、と……」
「ううん。付き合うまではいかなかったって。なぎ高の人たち、気まぐれっていうか、女遊び激しいらしいよ? イメージ通りって感じ」
「……、へ〜……」
「やめなよって言っても聞かないんだあ、その子。恋愛体質だから仕方ないのかもだけどね。痛い目みた話、よく聞く」
足元から忍び寄ってきていた暗い曇が、有沙の話で勢いを増し、わたしをさらに追い込んだ。
否定したかったはずの疑惑が、次第に大きくなっていく。
多々良くん、は、……なぎ高のひと。
そのことがわかっただけで……飛鷹のことだと、決まったわけじゃないのに。
わたしの頭はすんなりと、なぎ高の制服を着た飛鷹の姿を、思い浮かべることができてしまった。