Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「……澪奈もさ、気をつけなよ?」
「へっ?」
突然、話の矛先がこちらを向いてドキリとする。
「本当は今日一日、澪奈のほうから話してくれるの、待ってたんだよ」
有沙の前置きに、とうとう後ろめたい隠しごとを見抜かれたのだと、ぎくりと胸を突かれた。
なぎ高の人たちとのこと?
それとも、飛鷹の……こと?
どちらだろう、と胃を捻りあげられるかのような心地で続きを待つと、
「──甲斐田くんのこと」
予想外の人物の名前があがって、わたしは拍子抜けした。
ここが舞台の上だったら、ズコーッと、転がっていたと思う。
「澪奈もわかってるよね? 甲斐田くんの来る者拒まず、去るもの追わずっぷり」
「う……? うん」
「手遅れになる前に、ちょっと冷静になったほうがいいよ。そりゃ、あんだけかっこいいから……気持ちも、わかるけどさあ」
なんだか煮え切らない話し方をする有沙の言葉を、脳内で噛み砕いて。
ん? と頭を捻る。
「ちょっ……と、待った。有沙、何か勘違いしてない?」
「勘違いって? わたし、心配なんだよ。のめり込んで手遅れになって、さっき話した友達みたいに、澪奈が泣くとこ、見たくないから」
「……それは」
有沙は誤解しているんだ。
わたしと甲斐田くんが一緒に帰ったの、見たか聞いたかしたのだと思う。
だけどその誤解からくる有沙の気持ちは、角度を変えてわたしの心を刺してきた。
のめり込んで、手遅れになって。
傷つくことになって、泣いて終わり。
そんな未来をわかった上で好きになったら、自業自得。
……まさに今のわたしに、言えること。
甲斐田くんとはそんな関係じゃないんだって訂正しなきゃいけないのに、つい気持ちが沈んで、頭からすっぽり抜けてしまった。