Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
「あれは、……その」
じわじわ、横顔が赤く染まっていた。
「……建前、ですっ」
両手でしっかりちりとりを握りしめたまま、甲斐田くんの横をすり抜けて、階段を駆け上がっていく。
最後の一段を登り終えると、くるりとこちらを向いて。
「よく知りもしないのに失礼なこと言って、ごめんなさいっ」
それだけ残して、逃げるように姿を消してしまった。
「おー。手強い」
甲斐田くんは見えなくなった有沙を追うように見上げたまま、大して言葉通りには感じてなさそうに呟く。
……えっと……。
とりあえず、誤解は解けた、よね?
知り合った経緯は詳しく話せないから、ふわっとした否定になっちゃったけれど……。
上手いこと納得させられたみたい。
本人がタイミングよく現れてくれて、助かっちゃった。
「友達思いのいい子じゃん」
「うん。……だから、有沙には変なこと、しないでね?」
「さあ? 約束はできねーかも」
肩をすくめる姿に、思わず咎めるような目を向ける。
でも、へらりと受け流されてしまった。
「んじゃ、わかった。約束する代わりに今日は、寄り道させて」
「寄り道? でも、雨降ってる、けど……」
「だから。ちょっと申し訳ねえなあと思って、こうして頼んでんだって」
甲斐田くんは甘えるようにピアスを揺らしながら、ニッと笑って。
曇った窓に綺麗なハートマークをかいてみせてきた。
「おれとショッピングデート、しようぜ」