Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「平石さんは、それ、買うの?」



不思議そうに指をさされて、わたしは無意識のうちに手に取っていた髪留めを元の位置に戻した。

パールが可愛らしい、リボンを型どったもの。



「ううん。可愛いなと思っただけ」

「いいんじゃん? 似合いそう」



さらりと言われて、反応に困った。


そうだった。

この人、“あの”甲斐田くんだった。

きっと、こういうさり気ない部分で女の子たちを虜にしちゃってるんだ。



甲斐田くんはわたしの脇からひょいと腕を伸ばして、その髪留めをふたつ掴んだ。


……追加のプレゼント?

太っ腹だ。


「待ってて」と言い残してレジに向かう後ろ姿を、感心した気持ちで見送る。

お客さんが増えてきたので、わたしは邪魔にならないように、お店の入口付近まで移動した。

近くにあった鏡を覗き込み、それとなく髪を整える。

──と。
自分の肩越しに、エスカレーターから現れた4人の男子高生が目に入って、息を呑んだ。


……あれは……。

なぎ高の、制服。


そう認識して、体が勝手に固くなる。

顔がはっきりと見える距離ではないけれど、幸いなことに、わたしを襲った人たちではないことがわかった。


2週間前のことがあってから、こうしてなぎ高の生徒と鉢合わせるのは初めてだ。

みんながみんな、わたしのことを知っているとは限らない。

でも、バレたらどうなるかもわからない。


わたしは俯いて髪で顔を隠すようにして、鏡越しに様子を伺った。

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