Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
彼らはきょろきょろとあたりを見渡してから、こちらに向かって歩いてくる。
そのままわたしに気づくことなく、お店の前を通り過ぎた。
そのとき。
「──なあ。多々良、上にいるって」
スマホを片手にしたひとりの声が、わたしの耳にはっきり届いた。
「あ? なんだ。こっちじゃねぇのかよ」
「ったく。もっと早く言え」
気だるげに交わされる会話。
彼らは踵を返し、エスカレーターの元へと戻っていく。
その様子を、今度は鏡越しじゃなく、見失わないように目で追って……。
わたしは意識を引っ張られるままに、一歩踏み出した。
頭で考えるより先に、──体が、動いていた。
彼らは今から、多々良くんのところへ、向かうんだ。
そう思ったら──。