Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
ぐっ、と力強く腕を引かれて、わたしは後ろによろける。
確認すれば、紙袋を持った甲斐田くんが、険しい表情でわたしを見つめていた。
「今、……どこ行こうとした?」
「……え?」
はっと気づけば、わたしは、雑貨屋さんから離れたところに立っていた。
たった今、自分が何をするつもりだったのかを自覚する。
……彼らの後を追って、多々良くんのことを、ひと目見ようとした。
多々良くんという人物が──飛鷹なのかどうかを、確認するために。
上がっている心拍数。
わたしはそれを隠すように、ふにゃりと笑った。
「……ごめん……。あそこのお店、気になっちゃって」
咄嗟に取り繕ったけれど、甲斐田くんはわたしの行動の意図に、気づいていたかもしれない。
わたしを見る目つきが、今までとは違っていたから。
こちらが必死に被った皮を、一枚ずつ剥いでいくような……鋭さを帯びた目。
「……、そう」
でもそれは、一瞬のことで。
「いーよ。おれの用は済んだからさ。次は平石さんが見たいもの見てから、帰ろっか」
わたしの腕を放した甲斐田くんは、先ほどの表情が見間違いかと思うほどに、普段通りの人懐っこい笑顔を浮かべていた。
ほっとして、体から力を抜く。
「ありがとう……。じゃあ、あっち。ちょっと覗いてもいい?」
わたしはなぎ高の4人組が上がっていったエスカレーターとは真逆の方向を示して、そう言った。