Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



「え……あの……」



思わず説明を求めるような目を向けたのだけれど、



「どうしたの……寝転がったら眠くなっちゃった? いいよ、そのまま寝ても」



わたしが起き上がらないのを不思議に思ったのか、本条くんが首を傾けた。



「……。いえ、眠くないです……」

「あ、そう」



わたしは大人しく、むくりと起き上がる。

一瞬、さっきまでの距離感は、まるっと自分の空想だったんじゃないかと思った。


だけど、心臓はまだ早鐘を打っていて。

空想なんかじゃないって物語っている。


狐につままれたような気分のわたしを取り残して、けろりと元通りになった本条くんの態度。

……なんだか、嫌な予感がする。



「……えと、本条くん。さっきのって……」



まるで、わたしのことを好意的に思ってる、みたいな。

そんな言い方をしていたのは、ぜんぶ。

まさか、演技、だったり──?



「……ああ。本気にしちゃった?」



な……っ。


──はぐらかされたんだ。


わたしの意識を、質問の答えから逸らそうとしただけなんだ、って。

そう理解して、両耳がかあっと燃えてしまいそうになる。


わたしってば、──まんまと動揺しちゃった。

バカみたい。

本条くんがわたしを……なんて、ありえるわけないのに。


真に受けてしまったことへの恥ずかしさと悔しさに耐えるように、唇を噛み締めて、なんとか抗議の目を向けた。

すると、本条くんはすう、と目を細めて、



「でも、だいぶ前から俺が平石さんを見てたってのは、ほんとだよ」

「……も、騙されないから……」

「嘘じゃないって」



まるでおもしろいオモチャでも見つけたときのように。

こちらを観察するような、楽しげな視線を返してくる。

わたしはすぐに、真っ向からだと敵わないと判断して、逃げるように顔を逸らしささやかな抵抗を試みた。



「……そんな露骨に拗ねられると、煽られるんだけど」



──拗ねてるんじゃなくて、怒ってるのっ。


思わず言い返したくなったけれど、ぐっと堪える。


相手の挑発にのっちゃダメだ。

ここは冷静に、冷静に……。



「……知らなかった。本条くんて、ちょっとだけ、性格がねじれてるんだね」

「俺も知らなかったな。平石さんがこんなに、可愛い反応を見せてくれる子だったなんてさ」

「また、そういうこと言って……」

「ほんとに思ってるのに」


……ぜったい嘘だ。

だって、なにかを企むような顔、してる。

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