Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
本条くんが、またおもむろに近づいてくる。
思わず身構えると、
「そうそう。そうやって、ちょっとは警戒しないと危ないよ」
「……」
「なーに、その顔」
だから、怒ってるの……!
できるかぎり睨んでいるのに、本条くんにはちっとも効いている気配がない。
「なあ。それ、計算でやってんの?」
「……それって、どれ?」
言葉の意味がわからなくて、眉間を縮める。
すると本条くんは「あー。なるほどね」なんてひとりで完結したみたいだった。
「平石さんは、タチが悪いね」
「……それは、本条くんのほうだと思う」
「は、よく言うよ。ここ、さっきから無防備に見せびらかしておいて」
大きく胸元まで開いたわたしのワイシャツに、本条くんは人差し指をくい、と引っ掛けた。
「──ちょっ」
覗いたキャミソールを隠すように、サッと両手で覆う。
「こんな状態で潤んだ目で見つめてきちゃってさ……。俺のこと、試してるのかと」
「ち、違うよ……っ。だってこれは、本条くんがっ……」
「俺のせいなの? じゃあ俺がそのシャツの下も見たいなって言ったら、見せてくれんの?」
「〜〜っ! 見せるわけないよっ」
「なんだ。それは残念」
肩をすくめて、あっけらかんと言う。
……こ、このひと……。
──めちゃくちゃ、イジワルだ。