Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
わたしはむすっとしながら、ワイシャツのボタンを元通りにとめた。
「あーあ。見えなくなっちゃった」
「……っ、へんたい……」
「ひでぇ言われよう」
声を出して笑う本条くんから、じりじりと距離をとるように、やたらと広いベッドの端っこに移動する。
「そんなあからさまに逃げないでよ」
「警戒するように言ったのは、本条くん、でしょ」
「そうだった。うん、偉い偉い」
小さい子をあやすように、優しく頭を撫でられて、
「……も……っ、そういうのはいいってばっ」
「えー? でも俺はもうちょっと、こうしてたいけどな。だって平石さんの反応、おもしろ──」
突如、バンッ、と乱暴にドアを閉めるような音が、部屋の外から聞こえた。
ビクリと肩が大きく跳ねる。
「……な、なんの音?」
「……さあ。なんだろうね」
「わたしたち、うるさくしちゃったかな」
「そうかも。でも全然、気にしなくていいよ」
そう言われたものの。
やっぱり気になってしまって、つい白いドアをじっと見つめる。
そんなわたしに応えるように、──コンコン、とそのドアからノック音が聞こえた。
「怜也様、お召し物のご準備が整いました」
「ああ。どーも」
本条くんの返事のあとに、ガチャリと扉が開く。
姿を現したのは、いわゆる“お手伝いさん”らしき女の人。
ぺこりと頭を下げてから、部屋の中に入ってくる。
一挙一動が丁寧で、静かで。
わたしはその様子をまじまじと目で追ってしまった。