Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-


わたしはむすっとしながら、ワイシャツのボタンを元通りにとめた。



「あーあ。見えなくなっちゃった」

「……っ、へんたい……」

「ひでぇ言われよう」



声を出して笑う本条くんから、じりじりと距離をとるように、やたらと広いベッドの端っこに移動する。



「そんなあからさまに逃げないでよ」

「警戒するように言ったのは、本条くん、でしょ」

「そうだった。うん、偉い偉い」



小さい子をあやすように、優しく頭を撫でられて、



「……も……っ、そういうのはいいってばっ」

「えー? でも俺はもうちょっと、こうしてたいけどな。だって平石さんの反応、おもしろ──」



突如、バンッ、と乱暴にドアを閉めるような音が、部屋の外から聞こえた。

ビクリと肩が大きく跳ねる。



「……な、なんの音?」

「……さあ。なんだろうね」

「わたしたち、うるさくしちゃったかな」

「そうかも。でも全然、気にしなくていいよ」



そう言われたものの。

やっぱり気になってしまって、つい白いドアをじっと見つめる。

そんなわたしに応えるように、──コンコン、とそのドアからノック音が聞こえた。



「怜也様、お召し物のご準備が整いました」

「ああ。どーも」



本条くんの返事のあとに、ガチャリと扉が開く。

姿を現したのは、いわゆる“お手伝いさん”らしき女の人。

ぺこりと頭を下げてから、部屋の中に入ってくる。


一挙一動が丁寧で、静かで。

わたしはその様子をまじまじと目で追ってしまった。

< 46 / 182 >

この作品をシェア

pagetop