Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-
この人がさっきの大きな音を立てたようには……思えない。
違うだろうな。
……それより……。
お手伝いさんまでいるなんて、やっぱり本物の、お金持ちのお家なんだ……。
目を覚ましてからのこの短い時間の中で、何度それを思い知ったのかわからない。
いいところのホテルみたい。
なんて、頭の悪そうな感想を抱いてしまった。
「こちらにご用意しておきます」
「助かるよ」
窓際の近くのソファの上に、綺麗にたたまれたレディース服を置いて、
「それと、……だいぶ機嫌をそこねてますので、どうかほどほどに」
「ん。そーみたいだね。……珍しいな」
お手伝いさんは本条くんになにやら耳打ちをしてから、すぐに出て行ってしまった。
会話がうっすら聞こえてしまったけど、なんのことを言っているかはわからなかった。
かと言って、わたしが図々しく尋ねていいことではなさそうなので、聞こえなかったフリをする。
「制服が汚れてたから、用意させたんだ」
「えっ……それ、わたしの服って、こと?」
「他に誰がいるの。……着替える前に、シャワーでも浴びなよ。バスルームとかは、そっちのドアの奥」
……そろそろ、本条くんのお坊ちゃまぶりに目眩がしてきたよ。
「テーブルの上にあるやつとか、冷蔵庫の中のものは勝手に食べたり飲んだりしていいから。……少しゆっくりしなよ。帰りたくなったら、そこの内線電話で教えて」
うん。わかった──などと、言えるわけがなくて。
返事に困っていると、本条くんがくすりと笑った。