【書籍化】婚約破棄された悪役令嬢ですが、十歳年下の美少年に溺愛されて困っています
「セドリック……、今のままで十分なのよ。ありのままのあなたが好きよ。わたくしにとっては、誰よりも頼りになる、素敵な旦那様だわ」

 セドリックが髪から手を離してくれたので、やっと振り向くことができた。
 わたしは気持ちをこめて、セドリックを見つめた。

「それに……好きな人がどんどん大人になっていく過程を、一番近くで見ていられるなんて、わたくし、とても幸せだと思っているのよ?」

「アーリア……」

 後ろからちゅっと口づけられ、わたしも口づけを返した。

「セドリック、だめよ……ここでは」

「……どうして?」

「だって、隣の部屋にエドワード様がいるし、鏡が……」

「エドワード、ね」

 不機嫌そうに眉をしかめ、セドリックは口もとだけで笑った。
 あ、まずい。こんな状態の時に、ほかの男の名前を出してしまった……。

「大丈夫。あいつは待たせておけばいい。のぞき鏡は、向こうからは見えない」

 セドリックの細い指が、ふたたびわたしの髪を乱した。

「セドリック!」

「大きな声を出しちゃだめだよ。こんなに近いんだもの、さすがに聞こえてしまうよ?」

「セドリック、何を言っているの?」

 セドリックは無邪気な天使のような、そして同時に美しい悪魔のような、不思議な微笑みを浮かべた。


< 108 / 113 >

この作品をシェア

pagetop