ツイてない!!〜But,I'm lucky to have you〜
「あれ?水上先生?」
救急の担当医が病院長だった。スタッフも通常時よりだいぶ少ない。
「今日のチャリティーコンサート、皆すごく楽しみにしてたからさ。行きたい人行っといでって言ったらこんなに少なくなっちゃって。また理事長に怒られるよ。丹下先生もごめんね」
「大丈夫です。私はいつでも聴けますから。レントゲンの写真、見せてください」
水上先生と一緒に患者の処置を行っていた、その時。
院内放送用のスピーカーから厳かなピアノの音色が聞こえてきた。
「お、始まったね」
水上先生は手を止めることなく耳を傾けている。幸い運ばれてきた急患の処置はスムーズに終わった。
「丹下先生、ありがとう。コンサート、まだ間に合うよ、行っておいで?」
「私、ここに残ります。水上先生こそ行って下さい。
たぶん、最後の曲はまこと先生の大好きだったショパンですよ。…ハンカチ持って、そばにいてあげて下さい」
「…丹下先生…」
初音さんの弾くショパンは本当に素晴らしくて、引き込まれる。音楽と共に思い出や感情が溢れ出してくる。
たぶん琴羽さんには、涙を隠す存在が必要になるはずだ。一番の適任者は水上先生しかいない。
「ありがとう」
私に出来ることは多くないけど、二人が見つけた幸せの形を応援したい。水上先生は極上の優しい笑みを残し、白衣を翻して小走りに去っていった。
「ふぅ」
ひと息ついて、何かあったら呼び出してくれるように指示をして処置室を出た。
コーヒーでも飲みながら、院内放送でピアノを堪能しよう。